湾岸戦争と環境問題

米ソを基軸とした冷戦構造が終結し、地球環境の保全が全世界的に叫ばれているさなか勃発した湾岸戦争は、類例のない環境破壊をもたらすことになりました。

湾岸戦争による環境破壊は大別すれば、ペルシャ湾に流出した原油による海洋生態系の破壊と都合600本以上に及んだ油井の炎上による大気や土壌の汚染とに分けられます。

また、原因からみると、原油の流出、油井の炎上など「油」による環境破壊と、空爆や地上戦など「戦勝行為」による環境汚染に分けられます。

1991年1月17日、多国籍軍ぬよるイラクの首都バクダットへの空爆によって湾岸戦争は始まりました。

2月24日地上戦に突入し、その数日後に終戦を迎えるといったように、戦争の継続時間は比較的短期間ではありましたが、「世界の火薬庫」、埋蔵量では世界第3位のクウェートが戦争の舞台となっていたこともあり、「油」が戦略だけでなく戦術上の重要なポイントとなりました。

多国籍軍の戦闘機によるイラク爆撃は、戦闘開始から終了時点まで空爆回数で約11万回、爆薬の重量で8万8000トンにも及びました。

これに応酬する地対空ミサイルや迎撃戦闘機の数も多く、戦争行為そのものが環境に与える影響も看過できないものとなりました。

対流圏を飛ぶ戦闘機から排出される排ガスのオゾン層への影響も避けられないものです。

これら戦闘行為の影響を、窒素酸化物大気汚染に換算すると、中東の砂漠に忽然と東京が出現したのと同じ量となり、消費されるエネルギーもかなりのものとなります。

放置していた環境問題のツケ

ポーランド政府は、工場から排出される汚染物質の量に応じて「課徴金」を取り立てて、環境対策費に当てています。

この収入は、国や地方自治体の環境基金に組み込まれて、各種環境改善のプロジェクトに融資される「環境銀行」の創設資金に使われます。

また、とくに汚染のひどい80の工場に対しては、5年以内に排出基準を達成できない場合には強制的に閉鎖することを通告しています。

シロンスク地方では、改善の見込みの薄い20の旧式工場がすでに閉鎖されました。

とくに自動車の排ガスによる大気汚染が深刻なハンガリーは、排ガス規制を強化して、石油環境税を導入しました。

排ガスのひどい旧式の市営バスを新型に買い替えるとともに、排ガス除去装置のついた自動車に輸入を税制面で優遇する措置をとり、旧東ドイツ製の二気筒のエンジンの自動車の購入が禁止されました。

チェコスロバキアでは、きびしい大気汚染規制を導入。

旧式の工場は、失業者の急増を回避するために基準達成を5年間猶予されましたが、新工場は最初からこの基準を義務づけられています。

こうした最悪の環境汚染の原因はどこにあったのでしょうか。

社会主義が本来求めていたのは、新しい人間による新しい社会の建設にあったはずです。

しかし、現実には政治的な腐敗と官僚主義のみがはびこり、社会はいたる所で機能がマヒして、誰もノルマだけが最大の関心事となり、工場の生産設備の更新や公害防止設備の設置に責任を持つものはほとんどいませんでした。

しかも、環境関係のデータは「国家機密」とされて、都合のよい数字しか外部に発表されなかったのです。

それを監視すべき市民も、言論の自由を奪われて歯止めをかける力がなかった、ということに尽きます。

東欧の経済学者の推定(90年)では、環境の悪化による国民総生産(GNP)への被害は、ポーランド10~20%、チェコスロバキアで5~7%、旧ソ連では健康被害による医療費だけで推定GNPの11%にのぼるとされます。

東欧の環境を西欧なみに引き上げるには、各国とも数百億ドルの投資が必要という試算もあります。

40数年間放置した環境のツケは、あまりにも大きいものでした。

テイク

カメラを通してある1つのショットを記録するときのフィルムの一回し。その撮影の過程も、撮影された結果の映像もともに「テイク」と呼ばれる。マシスによると、商業映画の製作では、1つのショットに対して満足のいく映像が得られるまで、何度かのテイクが行われるのがふつうである。

それぞれのテイクは番号を付けられ、その番号はカチンコ(または黒板)に記録される。

動き出した反公害運動

旧ソ連でも、環境の危機がソ連全土で国民を政治に目覚めさせるきっかけになりました。

モスクワ市民で、自分たちの吸っている空気の質を知っているのは、政府機関の担当者だけといわれていたのが、ペレストロイカで環境の情報が一挙にあふれ出しました。

90年前後には、各地でいっせいに反公害運動に火がつき、1年間で240もの公害工場が市民の攻撃で閉鎖されました。

その頃、海外からの環境支援も少しずつ動き始めました。

ときに北欧諸国は東欧からの汚染大気が酸性雨の原因になっているとして、積極的に援助に乗り出しました。

さらに、米国などもポーランドとハンガリーに対する環境援助を強化しています。

東欧諸国、とくにハンガリー、ポーランド、チェコスロバキアは、ぜひとも公害を減らさねばならない事情があるのです。

これらの国が切望している欧州共同体(EC)への加盟には、ECのきびしい環境基準を満たさねばならないからです。

といっても、環境対策に多くの予算を割くゆとりはなく、各国とも必死に自主財源づくりの工夫をしています。

ポーランド政府は、環境整備基金を提案、対外債務の10%を棒引きしてもらう代わりに、それを基金にして環境対策に当てようという構想を進めています。

「環境と債務のスワップ(交換)」です。

すでに米国はポーランドと合意し、31億ドルの債権の7割を棒引きにする代わりに、その1割を今後18年間にわたって環境プロジェクトに割り当てるように義務づけました。

このほか、フランスとノルウェーが合意しています。

各地での環境運動

こうした工業地帯に加えて、全国的に大気汚染を引き起こした元凶に、「走る公害」といわれてきた東ドイツ製の自動車がありました。

その代表的なトラバントやワルトブルクは、1957年に生産を開始して以来、東西統合で中止される91年までに約500万台が生産されました。

2サイクル車独特の高いエンジン音とともに、排気管からはモクモクと黒や白の煙を撒き散らします。

89年にベルリンの壁が崩れるとこの国民車がどっと西側に繰り出し、旧西ベルリンなどで大気汚染の計測機器の数値がたちまち跳ね上がりました。

東欧の開放によって、一斉に草の根運動が蜂起。

社会主義政権を倒した新政権は、いずれも環境保護を重要政策に掲げました。

ポーランドでは、89年の「連帯」と共産党が歴史的な円卓会議をもったときにも、連帯側は環境問題を政治問題と同等に扱うべきだと主張しました。

チェコスロバキアで環境保護の火の手を上げた「ブロントザウルス(雷竜)環境運動」、ハンガリーでは国家プロジェクトのドナウ川にかかるダム建設反対のために組織された自然保護団体「ドナウ・サークル」、ブルガリアで最初の反政府運動を起こした「エコ・グラスノスチ」など、多くの環境団体が反政府運動の起爆剤となりました。

さらに、堰を切ったように市民グループが立ち上がりました。

旧政権が公認していたのは、どの国でも1、2の自然保護団体に過ぎませんでした。

91年にはチェコスロバキアでは100以上、ハンガリーでは150、ポーランドでも200を超える市民グループが誕生しました。

各国の連帯も生まれ、「黒い三角地帯」では3国の環境保護グループに西側の支援団体が加わって、90年に「黒い三角地帯会議」が組織されました。

東欧の環境問題は・・・

旧東ドイツは、東欧圏ではもっとも工業化が進んだ国でした。

年間3億トンを産出する世界最大の褐炭の産地で、エネルギーの大部分は褐炭に依存してきました。

この褐炭が「黒い三角地帯」に入るライプチヒ、ドレスデン、カール・マルクス・シュタット、ビターフェルトなど南部の工業地帯をひどい汚染源にしてしまいました。

工場は設備が老朽化して脱硫や集塵の装置をつけたものは2割もなく、装備していても経費がかかることから稼働していない場合も多いのです。

ベルリンから南に175キロ離れた旧東ドイツ最大の化学工業地帯のビターフェルトは、統一ドイツ政府によって、「世界でもっとも汚染された町」との烙印を押されました。

1年中煤煙に覆われているために、人工衛星から見えない「幻の町」といわれたことさえあります。

町に入ると煙突が林立し、どこもかしこも煤で黒くすすけています。

政府の統計でも、この町の硫黄酸化物や浮遊粉塵の濃度は全国平均の15倍もあるのです。

公害病の多発から市民の半数が健康異常を訴え、平均寿命は全国平均より女性で8歳、男性で5歳も低いです。

汚染の発生源は、設備の老朽化した工場。

なかには、1905年に工場が操業を開始して以来、ほろんど同じ設備で90年まで使われていたアルミの電解工場や、アウシュビッツの虐殺用毒ガスのチクロンBを製造していた化学工場、東側のカラーフィルムを一手に生産してきたアグファフィルムの工場などが含まれています。

とくに、森林や湖沼への影響も大きく、ビターフェルト市内の森林は75%が枯れてしまいました。

町を流れるザーレ川は、製鉄所からの排水で赤く濁り、あちこちに無処理のままで放置された有害廃液の貯水池には、無造作に「生命に危険」の警告板が立っています。

欧州共同体(EC)の飲料基準の数倍から十数倍もの重金属が含まれる飲料水の汚染も続いています。

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